あみだくじには、誰も疑わない暗黙の約束がある。「2人が同じところに着くことはない」。この約束は偶然ではなく、数学的に必ず成り立つ。
なぜか。答えは横線1本の正体にある。あみだくじで横線1本は「隣り合う2本の縦線の位置を入れ替えること」と全く同じだ。数学では、2つの要素だけを入れ替える操作を互換(transposition)と呼ぶ。下へたどる途中で横線に出会うたびに、移動中の2本が一度だけ位置を入れ替える。
入れ替え(互換)の決定的な性質は元に戻せることだ。2つを入れ替えたら、同じ2つをもう一度入れ替えれば元通り。元に戻せる操作は一対一対応(全単射)である。そして一対一対応を何度つないでも、結果はやはり一対一対応だ。
あみだくじ全体は、この入れ替えを上から下へ積み重ねたものにすぎない。だからすべての出発点とすべての到着点の間には、常に完全な一対一対応が成り立つ。すなわち (1) 異なる出発点が同じ到着点に着くことは決してなく、(2) すべての到着点が漏れなく誰か一人に割り当てられる。あみだくじの「公平さ」とは、まさにこの2文である。
「重ならない」ことと「どんな結果でも出せる」ことは別の話だが、後者も正しい。数学には「任意の順列は、隣り合うものの入れ替えを繰り返して作れる」という定理がある。並べ替えアルゴリズムのバブルソートがまさにこの原理だ。裏を返せば、横線を十分に引けば、あみだくじはどんな順番(並び)でも表せる。位置を完全に逆転させる極端な結果さえ作れる。
一つ補足を。横線を無作為に引いたとき、あり得るすべての順番がまったく同じ確率で出るわけではない。横線が少ないと移動幅が狭く、近い位置に行きやすい。ただし横線(複雑さ)を増やすほど分布は次第に均等に広がる。要は、均等さは複雑さ次第でも、「重ならない」ことは横線が1本でも100本でも常に保証される。700年を生き抜いた遊びの公平さには、これほど堅固な数学が敷かれている。
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